X-Noteを考える ―シナリオ―

Zeiva IncのMirage Maidenさんによれば、2010年に発売されたOtherAge:Second Encounter(以下OASE)は、販売面から言えば、ほとんど完全な失敗であった。
それは恐らく、絵のせいでも、知名度のせいでもなく、ゲームの内容そのものに原因があった。
OASEは、あまりにも多くの欠陥を抱えていたのだ。

x-note 新タイトル

それからしばらくして、Zeivaは、数年内に、OASEの経験と市場の分析を基に、ユーザーの好みを意識した乙女ゲームを2本作るというプロジェクト「Otome-X」を発表した。
私は少しおどろいたことを覚えている。従来のZeivaとは明らかに違う路線だったからだ。
プロジェクトの第一弾の産物「X-Note」が発売されたのは、それから約10ヵ月後のことだった。

今日は、このX-noteについて書いていこうと思う。

※注意:本文にはネタバレが含まれます。

◎シナリオ

○導入部分

幼い頃に母親を交通事故で亡くし、児童養護施設(Orphanage)で育ったエッシ(Essi)は、一見すると平凡ながらも、どこか他人との関わりを避けがちな生活を送っていた。
彼女は自身が超能力者だという、他人に知られたくない秘密があったのだ。

x-note ユオンと遭遇

ある日エッシは、路上で出会った青年ユオン(Yuon)から、ゼン学園(Xen Institute)で起こった事件―学校長が殺され、一人の研究員が失踪した―の捜査を、超能力で助けてほしいと依頼される。
自分が超能力者であることは、誰も知らないはずだ。
エッシはユオンを訝しむが、学園で起こった事件と自分の母親の過去が関係していると告げられ、協力を決意する。
彼女は母親の死や、母親の遺品であるUSBメモリーに記録されていた「X-Note」というパスワード付きファイルを不信に思っていたのだ。

小野不由美さんの悪霊(ゴーストハント)シリーズから影響を受けたと作者が公言しているように、本作にはそれと似た設定が何点か見られる。
たとえば本作のユオンと悪霊シリーズのナルちゃん(渋谷)の設定には、いくつかの共通点があるし、超能力の描写は、それををベースにしていると思われるところがある。
だが、似ているのはあくまでこれらだけであって、他の面、プロットそのものは違う。
過去のZeivaゲームにあった、あからさまな借用やパロディは、もう見られない。

○推理モノではない

物語は、2つの謎―学園の事件と母親の過去―の探求を中心に進んでいく。

ユオンの手引きでゼンに転校したエッシは、担任となったミス・エイシアが、母親の学生時代の後輩であり、また仕事の同僚であったことを知る。
母親のことを尋ねるエッシに対し、エイシアは、知らないほうが良いこともある、自分には真実をを話す勇気が無いと答える。
その只ならぬ様子にエッシは困惑し、どんな真実が隠されているのかと思い悩む。
その場面の台詞を引用してみよう。(レクサスはエッシの助言者となるサブキャラクターである。)

「パンドラの箱。人間はどうして箱を開けてしまったの?何もかもが悪くなってしまうと分かっていても、結局、人間は好奇心には勝てないのかな。(中略)
わたしは臆病者だ。真実を知ったら、なにもかもが変わってしまうんじゃないかって恐れてる。」
「どちらの方が大きい?真実を知った上での後悔と、真実を知らないことによる後悔は。」(とレクサスが尋ねた)
「分からない。真実を知らないままだったら後悔すると思う。でも、答えを得た後も同じ気持ちでいられる自信はない。」

こうした知ることへの恐怖は、形を変えてたびたび作中に現われ、エッシを悩ませる。

X-note オウル

だが、彼女はいつまでも悩み続けるタイプではない。
しばらくは落ちこむのだが、すぐに気力を取り戻し、行動を再開する。
そしていったん行動を始めると、実際の困難―必要なものが見つからないとか、手がかりがないとか―は簡単に突破してしまう。
本作における困難とは、現実の困難―情報を得る手段が無いとか、手がかりがないとか―ではなく、心の困難そのものなのである。
論理よりも心情を重要視したシナリオだと言える。ミステリーを名乗っているが、推理モノを期待してはいけない。

エイシアの忠告を受けた翌日、事件が起こる。
学校の実験室で、ミス・エイシアが何者かに殺害されたのである。
覚悟を決め、一連の事件や、自分と自分の母親の過去について調べ始めるうちに、エッシは、Xと呼ばれる謎の少年が一連の出来事に関連していることに気がつく。
やがて、攻略キャラクターの誰かが少年Xである可能性が浮かび上がってくる。

○恋愛要素は希薄

少年X

謎の探求と並行して進むのが、男性キャラクターとの交流である。
攻略対象となるのは、あどけなさの残る少年オウル、学校一の情報通を自称するちょっと三枚目なアノン、殺害されたゼン学園の学校長の息子ユオンの3人である。

恋愛要素は、乙女ゲームという看板から想像できるものよりは、ずっと薄い。
エッシが男性キャラクターと積極的に関わろうとしないのだ。
彼女は常に過去や事件の探求にこだわっていて、他のことを気にする余裕を持たないようである。
エッシがようやく相手を特別な人間だと意識し始めるのは、固有ルートに突入する頃になってから。
それも明確なものではないし、目的のことは脳裏から離れない。
はっきりとした恋愛の様子が示されるのは、エンディング間近になってからである。
(ただし、これらのことはオウルルートだけには当てはまらない。)

○プレイヤーはなにを望んでいるか、作者はなにを望んでいるか

X-note アノン

なぜここまで恋愛要素が薄くなったのか?
その理由はなんとなく推測できる。
実のところ、Mirageさんは兼ねてより、乙女ゲームの恋愛はくどすぎて苦手だ、という旨の発言をたびたびしていたのだ。

人々に受け入れられるような乙女ゲームを作ることを決めた。
乙女ゲームには恋愛要素が必要だが、べたべたのロマンスは避けたい。けれども、恋愛要素は入れなくてはならない。
これらの調整の末に出た結論が、この恋愛加減なのではないだろうか。

○クライマックス

エッシはX-noteのパスワードを特定することに成功する。
収められていたファイルには、自分の母親が、殺された学校長、ミス・エイシア、失踪した研究者ロイルらと共に、超心理学を扱う研究所で働いていたこと、エッシ自身も幼少期に、その研究所で生活していたことが書かれていた。
それらの過去は攻略している男性キャラクターの秘密にも繋がり、徐々に物語の全貌が見え始める。

物語は固有ルートに突入し、やがてクライマックスとなる。
しかし、このあたりの展開はいずれも平凡である。

ロイル

最終的にどのルートにおいても、騒動の黒幕は失踪した研究員ロイルだったことが分かる。
エッシは学校の実験室に置かれた人体模型の裏に隠された扉の先に、秘密の研究所―かつての超心理学研究所―を発見、そこでロイルと対面する。
彼は失踪したと見せかけ、学校の地下に潜伏していたのである。(…今まで生徒にバレなかったのだろうか。食料諸々はどうしていたのだろう。)

ロイルは世の中の人々を「つまらないもの」だと見下し、その退屈さを紛らわせるために、超能力の素質を持つ子供の研究に没頭する狂人だった。
その彼が中心となって行われていた悪魔的な研究が、すべての不幸の原因となっていたのである。
(実際の流れはもっと複雑だが、ここでは説明のために流れを簡略化している。)

本作には、ステレオタイプ的な性格のキャラクターが登場しないのだが、このロイルだけは、判で押したようなマッドサイエンティストである。
最後に対峙する宿敵としては古臭さがあり、物語は減速してしまう。

○おわりに

終盤の展開はともかく、全体としては悪くないシナリオである。
登場人物の心情は首尾一貫して描かれているし、強い意志を持って行動し続ける主人公の姿には、ある種のたくましさすら感じられる。
X-noteや、少年X、過去に起きた事件などの謎が怒涛の勢いで明らかにされる過程も、山場としては十分である。

ただ、舞台が学校とその周辺だけに限られていること、登場するキャラクターの過半数が知り合い同士であること、また3人以上の人物が同時に会話する場面がほとんどないことが合わさり、物語が小ぢんまりとしてしまっているのは残念に思う。
超心理学だとか、大企業/政府だとかいった言葉が出てくるが、これでは結局、内輪の因縁に終始していたという印象が拭えない。

―X-noteを考える ―システム―に続く。

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